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☆Taku Takahashi (m-flo, block.fm)
音楽家、DJ。1998年にVERBALとm-floを結成。個人では加藤ミリヤ、MINMI、SMAPなど人気アーティストのプロデュースを務めるほか、ドラマ・映画「信長協奏曲」やアニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」、ゲーム「ロード オブ ヴァーミリオンIII」などのサウンドトラックも監修するなど様々な分野で活躍中。自身が立ち上げた日本初のダンスミュージック専門インターネットラジオ「block.fm」は開局5周年を迎え、新たな音楽ムーブメントの起点となっている。

http://twitter.com/takudj
http://block.fm/

─普段、音楽製作に使用されている機材を教えてください。

「MacBook」と『APOGEE(アポジー)』のオーディオインターフェースです。最近は、このふたつをメインで使用しています。それと、MIDIキーボードです。

─ケーブルなどの周辺機器を『アコースティックリヴァイブ』製品に変更されましたが、変更する前と音質が変わったなどの感覚はありますか?

音が締まったという感覚はあります。ボーカルのリバーブのキラッとしている部分と、低音の輪郭が見えてきたと思いますね。今回、『アコースティックリヴァイブ』さんには、ケーブルを変えて頂いただけではなく、いかに「インシュレーター」が大事か、、、という事を教わり、とても勉強になりました。いわゆる、震動が音に影響を及ぼすという部分についてのお話ですね。

ケーブルに関していえば、ブラインドテストをすれば、今まで使用していた物よりも絶対に良い音が出ているという違いはあると思います。でも、それ以上に重要なのは、音を製作する「環境」だったという事なんですよね。モニターから音が出た時に部屋の中で何が震動するのか、そういう部分まで考えてセッティングしていただきました。コードやケーブルなどのオーディオ機材だけではなく、電源部分まで変えていただいたんですよ。

僕のシステムは通常のスタジオとは違って、吸音とか、そういう物もないのですが、そんな中でも、わりとロー(低音)の音域が気持ちよく出るように、チューニングしていただいたんです。要は、こういう事って、もちろんケーブル一つ変えるだけでも変わるとは思うのですが、やるのであれば徹底的に変えた方がいいという事を、実体験させていただいた感じですね。

─タクさんにとって、音の良し悪しの決め手はどんな部分でしょうか?

その質問はとてもいい質問だと思っていまして、要は音の良し悪し"だけ"で聞かれるのと、 "タクさんにとって"と聞かれるのでは、全然質問が変わってくると思うんです。音というものは、やはりそれぞれの好みがあって。。。例えば、一般の人たちが「Hi-Fi(ハイファイ)」 で良いという音は、必ずしも僕は好きではなかったりする訳です。そういった中で、 僕自身が大事にしているのは、"音の輪郭が見える"という部分 なぜなら、ダンスミュージックという音楽は、以前よりもカッコイイという音に、プラス 「如何に体感できるか?」という部分が重要で、低音の気持ち良さとか、高音の気持ち良さとか、 そういった部分が求められている。その為にエンジニアがいる訳ですが、エンジニアに音源を渡す 前から良い音で作るという事が大前提だと考えます。

ボクはエンジニアと一緒に作ったりする事が多いのですが、最近のダンスミュージックシーンのクリエイターは、エンジニア無しで、ミックスダウンまで自身でやられる方 もいる。僕もたまにそういった事をしないといけない時もある訳で、そういった中では音づくりの段階からしっかりと良い音を選択しますね。例えば、音をエフェクターで調整する時も、輪郭がしっかり見えて、かつ低音がプッシュされている音を僕は求めます。ローの音にも様々な表情がある訳で、とにかく、その"輪郭が見える"という事が大事なんです。

─様々な会場でDJやライブなどのパフォーマンスをやられていますが、会場の環境などによって出る音が変わりますよね。その場合、ご自身の中で決めている最低ラインの部分はありますか?

例えば、DJをする時、このローの部分が出ていないといけないとか、ここは出過ぎると耳が痛くなるとか、、、もちろんハコ(クラブ)によって音がまったく違うと思います。しかし、共通する部分もあるんですよね。青れは、その音源を作ったスタジオさえしっかりしていれば、わりと微調整で済むという部分です。 そこは真のコアな部分で、妥協のラインというか、ファンダメンタルな部分というか、、、まあ、最低ラインですよね。クラブにおいての話ですが、日本のサウンドシステムは海外に比べると結構良いんですよ。もちろん、世界のトップクラスのハコは良いですけれどね。ただ、日本の方が平均的に良いと思います。本当に酷い場所というのは、滅多に無いですね。

以前、香港でDJをした時は、DJブースに低音しか聞こえてこないクラブがありましたよ(笑)。お客さんの方には、良い音が出ていたんですけれどね。

─それは返しのモニターが悪かったという事ですか?

いえ、それはもう部屋の構造的な問題でしたね。DJブースの位置の工夫がされていなかったから、音がうるさいんですよ。日本だと、そういう作りの場所はないです。でも、そういった場所でも、スタジオで作った音がハコに通じる物を作っていれば、DJをする時に自信をもって、安心しながらパフォーマンスが出来ますね。現場と同じサウンドシステムとは言いませんが、それをシュミレーションができるような「環境」は大事だと思います。

僕のスタジオでは、スピーカーは「MACKIE」を使用しています。もしかしたら、それは世界一良いスピーカーではないかもしれないのですが、僕のクラブでのシュミレーションのサウンドに近い感じがするので、それを選びました。

─自身がパフォーマンスするような場所の環境に合わせた機材をセレクトしている、という感じでしょうか?

そうですね。ただ、クラブでDJをする曲を作るだけが、僕の仕事ではないので。 最近の日本のポップスも、ようやくそうなって来たと思うのですが、アメリカのポップミュージックは 低音の出方がとても良いんですよ。お国柄な部分もあるとは思うのですが、日本もどんどんそういう 方向になってきていて、ポップスでもボーカルが聞こえながらもきちんと低音が出ている。 すると、僕のスタジオのセットでも低音が出ながら、ボーカルのリバーブとか、ディレイとかが 聞こえるというのが求められる訳です。

今回、ケーブルを変えて頂いて気づいた事が、その辺りのリバーブというか、空気感がよく聞こえるよう になりましたね。「Hi-Fi」だと、その辺りは聞こえるのですが、ローが薄くなってしまう、という感じ があるのです。しかし、僕のスタジオでも、その辺のローもきちんと出た状態で、ボーカルが聞こえるという 感じになったのが、良かったなと感じました。

─タクさんにとって音源製作における機材の良し悪しは、何で決まるのでしょうか?

そこはすごく難しい質問ですよね。なぜなら、"便利=良い"ではないからです。だからと言って、不便だから良いでもない。しかし、どちらにも利点があり、そのバランスなんだと思いますね。最近、その部分をとても感じていて、プロフェッショナルとして作曲をやっていく上で、スピーディに作れる環境は必要だから、便利な方が良いとは思います。 だけど、音楽をアートの概念で見ると、予定調和になってしまうのは良くないと考えていて、そういった意味で、不便な方が音楽制作においての想定外の事故が起こって、新しいクリエイティヴに繋がる事もある訳です。僕は、『Ableton Live』と、その中に入っている『Native Instruments』のプラグインを使うという、ほぼラップトップ上のソフトウェアベースで製作しています。良し悪しは別として、一つで済むという便利さと、接点が少ないので音もその方が良いのではないかという考えもあります。 なおかつ、スタジオでの作業が終わらず、DJなどのツアーで外出しないといけない時も、PCさえ持っていけば、そこで作れるという利点もある訳ですよね。

ただ、外部のハードウェアを使用する方が、音に"味"が出たり、想定外の事が起こったりする場合があるので、ヴィンテージサンプラーを使用して、アナログレコードの音源をサンプリングしたりもしています。でも、それは持ち運べないですからね。そこは不便なのですが、音の"味"というのは、他人には出来ない事に繋がる。だから、どちらも大事だと考えています。その部分での良し悪しは、僕にとってふたつあるのですが、まったく正反対の事なんです。 一つ目は、自分がイメージした通りに音楽が作れる機材。それは素晴しいですよね。もう一つは、自分のイメージした通りにまったくならない機材です。想定外の事が起こる機材も素晴しいと考えます。そのどちらも良い機材だと考えていて、そのバランスを取ろうとしているのが、僕の今のスタジオの環境なのかなと。

─アナログレコードからサンプリングした時、所謂ザラっとした感覚があると思うのですが、その部分は残される方ですか?それとも綺麗に処理する方ですか?

曲の中で味になるのであれば残します。しかし、たまにそれが邪魔する事もあるんですよ。その時は、残さない ようにします。あと、僕らダンスミュージック界隈では「音が太い」という表現をよく使うのですが、最近 、色々と分かってきたのが、音が太くなり易いのは、アナログで録っているもので、なおかつロスが少ないもの なんですよ。それは大きい要因の一つだと思います。

近年のソフトシンセはよく出来ているので使い続けているのですが、"音の味"を出したい時は、外部のハード ウェアの方が圧倒的に出る。そして、それをするにはやはりケーブルにこだわった方が絶対良いと考えます。

─それは、例えばですが、ベースの音を録る際に音的に気に入らない時にケーブルを変更するという事ですかね?

僕自身はケーブルの着せ替えはほとんどしないのですが、エンジニアでそういうことをやられる方はいます。 確かなのは、良いケーブルを使えば音は良くなる。ただ、好みもあると思いますけれどね。科学的な部分までは良く分かりませんが、ケーブルによって真ん中の音域が強く出たり、低音が若干強く出たりとか、、、あると思うんですよ。それに、その部分はラフで分かるものでもない。だから、エンジニアによっては、ケーブルをかなり変える方はいますよね。 音に関して、まだまだ解明されていない部分も沢山ある訳で、例えば、マスタリングスタジオにおいては、エンジニアがハードディスクの場所を変えただけで音が変わる、というのもあったり。それは僕も実際にブラインドテストをやったのですが、本当に変わっていたんですよね。 そういう事って、科学的にも証明は出来ると思いますが、まだ解明されていない。専門的に調べている人もあまりいないですしね。それに、僕らの仕事はその原因を調べる事ではなく、どちらかというと作曲の方ですので(笑)。でも、音が変わるのは確かなんです。解明されていない事は沢山あります。あとは、機材同士の相性もありますからね。

─現在、タクさんの様に、ラップトップ一台で音楽制作をされているクリエイターが多い時代かと思います。今までは、何千万もの金額が掛かったスタジオが、数十万円で本格的なスタジオ的な音を作れる環境になった訳で、そういう状況では、やはりケーブルを一本変える事が大事になってくるのではないでしょうか?

もちろんケーブル一本から変え始めるのも良いとは思いますが、個人的には全部変えた方が、効果はどんどん良くなっていくと考えますから、ベースから変えた方が音は良くなるだろうと思いますね。

─音源を製作するソフトウェアは、恐らくほとんどの方が一緒のソフトを使用されていますよね。

今、ますますクリエイティヴィティが難しい状況になってきていると考えます。なぜなら、皆、誰もが同じソフトウェアのシンセサイザーを使用している状況ですから。 例えば、誰かの音が「格好良い!」と思ったなら、以前は、別の楽器でその音を再現しようとする訳です。当然、再現しきれないですよね。でも、再現しきれないのが、新しいオリジナリティに繋がっていたんですよ。今は、WEBで探せば、まったく同じ音を作れてしまう時代。 憧れが新しいオリジナリティに繋がっていたのが、最近では、次のコピーを作ってしまう状況になってしまった。本当に気の毒な話なのですが、最初のモチベーションは一緒なんですよね。だから、ますます並列化されていく中で、ケーブルにこだわるというのは、他人との違いを出す為の選択肢の一つだと考えます。例えば、アンプなどのアウトプットを変えるのもありですし、そこにソフトシンセを一回通して戻すだけでも、また違う物になる。 ボクは、便利だからラップトップを使っていますが、それだとどうしても事故は起こりにくい。でも、ケーブルを使えば使う程、いい事故が起こり易いんですよね。

─思っていなかったような音が出たりという事ですよね?

もちろん、駄目な時もありますよ。でも、少なくとも違う物にはなると思います。 僕のセットは、変更できる物はほぼ100%『アコースティックリヴァイブ』製品に変更しました。良い点で言うと、ロスする部分が少ない。 もう一つは、インシュレーターを大事に考えられているという部分ですね。干渉を如何に防ぐかという部分にこだわられて作られている。そこがとても重要なんです。

─若いクリエイター、いや、今後音のクリエイティブに携わる人に向けて、機材面でのアドバイスをいただけますか?

便利になった分、皆が同じ音になりやすくなってしまっている。だから、少しでも、人と違う事をやる意識を持つのが重要かなと思いますよ。僕も、、、僕だけじゃなく、他のプロフェッショナルな人達も模索し続けています。とにかく、色々と試してみる事が、クリエーションの中で大事な事だと思いますね。

─音楽はいま、レコードからCD、そしていまはmp3、ハイレゾと、環境が変化している状況ですが、それについてはどのように考えていますか?

そこに関しては、特に何も思っていないですね。音楽は、その人の好きな様に聞けば良いと考えています。mp3も、音の情報は減ってしまっていますが、良いクオリティでは聞けますし。音の製作面で言うと、そこでロスされる情報は重要なのですが、社会的には良いし、そこはもう聞く側の皆さんの自由かと。現在だとアナログレコードが流行っていますが、それについても「結構な事ですねー」くらいに思っている程度なんです。それで僕の人生の何かが変わるか?というと、そうでもない。たしかに最近、レコードのセールスの方がデータを超えたというニュースもありましたけれど、少しハイプになって来ている部分も感じています。大事な事は、その音楽をどう感じるのか? という所なんじゃないかなと。

いまはハイレゾ音源も出て来ていますし、もちろんダンスミュージックの世界でもハイレゾになった方が体感は良い訳ですよ。だからって、それで聞かないといけないという訳でもない。ただ、選択肢は沢山あった方が良いとは思いますけれどね。

─ハイレゾ音源対応の機材も追いついて来ていますね。

『Pioneer』のCDJも、ハイレゾ対応になった物がリリースされましたよね。ハイレゾ音源にすると体感は違うんですよ。mp3でDJしていた曲も、WAVデータにしようかなと思ったりしています。

─アナログ用と、デジタル用では、作る音を変えていますか?

それは僕の領域ではなく、マスタリングエンジニアの領域ですね。マスタリングエンジニアでこだわっている人は、CD用、配信用、アナログ用で微調整をする人もいます。デジタルではどうしても音的にロスする部分が出てしまうので、調整しないといけないのです。フォーマットは時代で変わっていきますけれど、出来れば良い音で聞いてもらいたいという思いはありますよ。もちろん、聞く側の都合もありますけれどね。テレビが出来て紙芝居屋がなくなった、とういう事があるじゃないですか。そういう事は常に起こる事なので、こればかりは寂しいですが仕方がないかな。─時代とともに色々な物事が変わってしまいますよね。最近、「ムーアの法則」が、ついに破綻したというニュースを見ました。経験における将来予測の法則の一つなのですが、そういう状況になって来ているのは確かです。

─次の時代に期待している事はありますか?

僕的には、インターネット回線がもっと早くなって欲しいですね。あとは、ハードディスクの容量。僕が求めているのは、この二つです。音に関して言うと、CPUの処理速度は、ハイレゾにまで対応できる様にはなって来ているとは思います。映像であれば、もっと必要かも知れないですが。後は、回線の速度と、ハードディスクのスペース。速度は、320kbpsのmp3で少しでも音が良くなれば、それはそれで良い事だと思いますね。

─「blockFM」の方の機材も変更しましたよね。

どうあがいても配信先のフォーマットは決まってしまっているので、その手前を良くする事で、どのくらい音が変わるかがポイントだと考えています。

─ありがとうございました!

ありがとうございました!

Interviewed by Hideshi Kaneko / Photo by Makoto Nishijima