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//Artist Review//

田中知之 (FPM)

DJ/プロデューサーとして国内外で活躍。‘97年『The Fantastic Plastic Machine』でデビュー以降、8枚のオリジナルアルバムをリリース。2004年に立ち上げたDJ-MIXシリーズ『Sound Concierge』は、これまでに全11作を発表し、いずれも異例のセールスを記録している。
多数のアーティストのプロデュースも手掛けており、リミキサーとしても、布袋寅泰、くるり、UNICORN、サカナクション、THE BPA(FATBOY SLIMことノーマン・クックによるプロジェクト)、Howie Bなど100曲以上の作品を手掛けている。
「オースティン・パワーズ:デラックス」「SEX AND THE CITY」への楽曲提供の他、村上隆がルイ・ヴィトンの為に手掛けた短編アニメーションの楽曲制作、UNIQLOや資生堂など大手企業のCM音楽、グランフロント大阪など商業施設のBGM制作など活躍の場は多岐に渡る。

DJとしては、日本国内はすでに全都道府県を制覇、海外でも約50都市でのプレイ実績を誇り、近年でも出演イベント数は年間100本を軽く超える。ジャンルという固定概念に縛られる事の無い、豊富な音楽知識に裏打ちされたプレイスタイルは、国内外のハイブランドのパーティーDJとしても絶大な信頼を得ている。3枚組オリジナルベストアルバム『Moments』、そして3枚組リミックス&プロデュースワークスベスト『Moments』が好評発売中。

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「田中知之&ナカムラヒロシ」 インタビュー

─さて、現在の音楽制作における環境はどのような感じなのでしょう?

田中知之(以下、田中):
基本的にはデジタルのハードディスクレコーディングになって久しいですね。事務所の引っ越しをキッカケにスタジオをつくりまして、もともと以前の簡易スタジオから使用している、ドイツの『ムジーク(musikelectronic geithain)』の「RL900」というモニターを見据えたカタチで、スタジオの内装をすべて作りました。スピーカーのエイジングも進んで、現状はいい感じで鳴っているという状況ですかね。

─音源制作自体において、すべてがデジタルで完結するような環境になっているというコトですか?

田中:
はい。でも、現在はデジタルとアナログの両方を併用しています。最近は、dododod(ドドドッド)という別名義のダンスミュージックに特化したプロジェクトをやっていまして、マニピュレーターとしてお願いしているi-depのナカムラ(ヒロシ)くんとスタジオに入って、もちろん楽曲制作もしているのですが、常に音響的な実験もしているんですね。そこで『NEVE』の1073とか、『UREI』の1176とか、いわゆるアウトボードの名機みたいなものをデジタルと組み合わせて使っています。

─もともとは併用して音楽制作されていたというコトなんですね。

田中:
2000年初頭は、デジタルとアナログの半々くらい。ヴィンテージの機材も使いながら音楽制作をしていました。しかし、すべてがデジタルだけで出来てしまう状況に世の中が進むなかで、自身のレコーディング環境もデジタルに置き換えていく流れもありまして、一時期はデジタルだけですべて完結させるような事をやっていましたよ。

─つまり、元に戻した、というよりかは戻った、というコトですね。

田中:
もともとヴィンテージのアウトボードが好きで、集めてはいたんです。それで、どれだけ最新鋭のダンスミュージックのサウンドを作るにしても、『UREI』の1176や『NEVE』の1073を使うと、トンデモない音になるということを発見しまして。。。ナカムラくんとふたりで、「コレはすごいことになりそうだ!」ってなったんですよね。

ナカムラヒロシ(以下、ナカムラ):
困ったら「1073を通すかなー」って(笑)。

─なるほど。今回、『ACOUSTIC REVIVE』の周辺機器を導入されましたが、具体的にどの様なコトをされたのでしょうか?

田中:
ケーブル類と電源類をすべて換えていただきました。例えば、『NEVE』などのヴィンテージ機材には電源という部分でアップデートを施してもらい、デジタルの『パイオニア』のDJミキサーやCDJなどでも、細かいセッティングをしていただいた感じですね。

─実際に音質的な変化を感じましたか?

田中:
じつは、音響的な実験を進めていく中で、『ムジーク』のモニターの低音の鳴りが不安だったんです。それで1年前くらいに低音の補強というか、モニタリング環境を整えるために、同じ『ムジーク』のサブウーファーを導入したんですね。でも、『ACOUSTIC REVIVE』さんに周辺機器を全取っ替えしていただいた後で、あらためて音を聞いてみたところ、900の低音が鳴るようになったんです。それも「最初からこの状態だったら、サブウーファーは買ってないよね!」というくらい。もちろん、変化の具合というのは分かりやすいものと、プロフェッショナルな耳でしか分からないもの数値的なもの、気のせいの部分も含めて、いろいろあると思うのですが、とにかく、子どもでも分かるくらい明らかな音響的な変化というか、アップグレード感みたいな部分を感じました。

─それは、どの部分が作用したと考えていますか?

田中:
全体的にやっていただいたので、どの部分が作用してそうなったのかは、残念ながら定かではないです。ですが、明らかメインモニターの鳴りが違ったので、ナカムラくんととてもビックリした事を覚えていますよ。

─音の良し悪しの基準、というか定義は、もちろん人によりけりだとは思いますが、田中さん的に良い音というのはどのような定義になりますか?

田中:
私自身は、あらゆる時代おいての良い音があると考えています。つまり、各時代の中での良い音というのは、それぞれ価値判断が違うのかなと。例えば、現代の21世紀のハードディスクレコーディングがベーシックのハイレゾ音源も含めた高音質と、50年代のモノラルのサウンドシステムでの高音質。それらはまったく異質のモノですよね。だから、一概にどちらが高音質とは言えないと思っています。でも、私自身は両方の音が好きなんですよ。

じつは自宅の音響機材には、モノラルの真空管アンプや50年代のスピーカー、ターンテーブル、カートリッジ、プリアンプ、メインアンプという感じで、すべてヴィンテージの機材でそろえているんです。まあ、50年代ジャズのモノラル盤を聴くための、いわゆる正しいジャズのオヤジみたいなことをやっているんですよ。

─当時の環境を再現するということですね。

田中:
50年代のジャズの音って、モノラルなのにものすごく分離していたり、音にダイナミズムがあるんです。あのジャズのレコードがこんなすごい音で録音できたのか。例えば、レーベル「ブルー・ノート」の諸作で有名なレコーディングエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーが、当時のレコーディングの際にマイクのセッティングをどうやったのかが、まったく分からないんですよね。彼は完璧な秘密主義で。

─当時の音源は、たしかにダイナミズムを感じる音ですよね。

田中:
だから、ダイナミックな音の表現というのは、数値化とか、年代のアップデートでは得られないモノだと考えてます。しかし、現代の機材的な進化や発展というのは、何かを、、、音だったり、ダイナミズムと引き換えに、行なわれてきたわけですよ。そんな中でまったく価値観の違う良い音を追い求めている感じですかね。

─では、現状の音響環境の中で音を良くするという意味は、どこにあると考えてますか?

田中:
“良い音響というのは何か?”というのは、一概には言えないですよ。だけど、今回のサポートの際、電源という本体の機械ではないモノ、それをサポートする部分が介在することで音質を向上させられるということが、「現代のものも過去のものも選ばない」と、『ACOUSTIC REVIVE』の石黒社長がおっしゃってて。その言葉は私にとって魅力のひとつでしたね。オーディオ雑誌を読んだりして研究して、自分でモノラルのオーディオシステムを組んで、50年代の録音物をいかに現代で当時のハイエンドな環境で鳴らしてきて、いろいろなトライの中から音質を向上させるという事をやってきたワケです。今回は、いわゆる現代レコーディングの環境でやってみたということなんですけれどね。

─”音質向上の根源は電源にある”と考えているということですかね?

田中:
そこが根源なのかは定かではないかな、とは思いますけれどね。過去に高価な電源ケーブルとか、いろいろなものを試してきた中で、さすがにと思える部分と眉唾な部分とがあるワケです。今回ももちろん、そういう部分もありながらですが、『ACOUSTIC REVIVE』さんの電源を通したわけですよ。でも、自分で電柱までもを建ててしまうジャズオヤジの気持ちが、分かったような気がしました。「電源を変えるとこんなに音質が向上するんだ」という体験をしてしまったワケです。そういう意味で、自分たちの中ではすごく良い具合にアップグレードできたのかなと。つまり、僕らの環境にもっともフィットする形で作用したのかなと考えています。

─ナカムラさんにとって良い音とはどういう定義でしょうか?

ナカムラ:
良い音という意味に繋がるかは分かりませんが、今って、インターネットに有名曲の音のプリセットが落ちている時代なんですよ。そんな中で、自分たちが頭の中でイマジネーションして生まれる音、もしくはスタジオで交通事故のように生まれる音色があって、その人のそのスタジオでしか鳴らない音というのが、一番重要だなと。それがアーティストである意義というか、アイデンティティになると考えてますね。

─今回、周辺機器を『ACOUSTIC REVIVE』に変更したコトに関して、感じたコトはありますか?

ナカムラ:
僕がPCの前に座って思ったのは、もちろんサブウーファーがいらなくなったというのもあるのですが、ケーブルが変わった事で、とにかく安心感があるという点です。機材の能力を100%以上引き出すために、「自分のPCのハードディスクがここまでいけるんだ!」って思えたんですよね。つまり、ハイレゾで録音するときのデータのやり取りもロスがないってこと。それって、すごい安心感なんですよ。このスタジオの機材が、いま一番全力のパワーを使えている。ということは、良い音なんだろうなと感じています。

─レコーディングにおいて、こだわっている部分などがありましたら教えてください。

田中:
モノラルの50年代のダイナミズムみたいな部分って、車でいえばミッション車だと思うんです。トルクがあって、Gを感じる。そういう感じで、音圧に対してのけぞってしまう音楽とか音響に対して、すごいなと思うんです。その一方で、現代レコーディングの高音質というのもある。両方に対して、僕らは今の世紀の音楽家として音楽を作っているので、その部分は追い求めていかないといけないと考えています。だから、最近は、例えばハイレゾのレコーディングもやっています。つまり、98kの24bitで。

─dodododは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?

田中:
基本的にはダンスミュージックに特化したもので、いちばん最新の最強の最高の音像みたいなものを内在させたダンスミュージックを目指しています。dodododを天地逆にするとpopopopになる訳で、つまりPOPの逆というか、POPを内包していると言うか。

─dodododをはじめられた中で音響的に意識されている部分はありますか?

田中:
今はDIYで音楽を作れる環境が進化したので、かなりのクオリティのものがベッドサイドで完全に作れてしまう時代ですよね?でも、僕らがはじめた20年以上前の頃って、ベッドサイドの音楽はDIY精神にはあふれているけれど、いわゆるプロのSSLの卓でエンジニアがミキシングしたモノとは、あきらかにクオリティが違いましたよね。それでも、タク録ならではの魅力みたいな部分でジャッジしていたと思うんです。
でも、今だとタク録だろうが、高価なレコーディングスタジオだろうが、センスと知識と経験値で、ものすごいところまで闘える時代ですよね。

─たしかにPCの性能も10年前とは比べものにならないくらい上がってますからね。

田中:
そんな中で、自分たちは最初はデジタルに限定していろいろなトライアルをして来たのですが、壁に当たってしまったんです。

─どのような壁でしょうか?

田中:
例えば「音は大きくなったけど、、ちょっとウルサいよね!」とか、「気持ちよくないよね」とか。一時期の音圧競争みたいなブームが、一段落した中で、単にボリュームメーターでは表せない、人間の聴覚的な部分に素直な良い音というものに対してアプローチです。

─解決方法としては、どのような方法をとられたのでしょうか?

田中:
ビンテージ機材、そのシミュレーションも含めて、そこを通過させることで、すごくまろやかでハイエンドな音というか、ちゃんとした音像、音響を感じる音が出せるようになりましたね。それこそがdodododとして鳴らしたい音響なのかもってね。

─機材の進化における音楽の発展の可能性は感じていますか?

田中:
当初、FPMをはじめた頃は、サンプラーが『AKAI』の1000しかなく、ちょっとしたサンプリングのストレッチをするにも20分も30分も掛けて、それでもやってみたストレッチを聞いてガックリきたりとか(笑)。でも、今だと0.5秒くらいでストレッチできて、且つものすごい精度ですよね。音楽的に、以前はあきらめていた事ができるようになったのは大きいと思います。

─逆に危惧している部分は?

田中:
良い歌を録音するという事に関して、コンピューター上で直せてしまうという部分ですかね。エモーショナルを封じ込めるという事に対して、”現代の人たちは怠惰になっている”とは、一般論としても言われていますから。 僕らの作っているダンスミュージックは、ライブでインストルメンタルを弾くミュージシャンや、エモーショナルなボーカリストを呼ぶわけでもないんです。ハードディスク上で音を作りあげていくという中で、エモーショナルなものをどう表現するのか?というのが、新しい音楽と音響の理想のニュアンスですね。 ナカムラくんと半年以上かけて、ほぼ毎日のように実験を続けていて、最近、「今の僕らの音って、こういうのだよね!」という音が作れるようになってきて、その糸口が見えた感じがあります。その状況で、さらに『ACOUSTIC REVIVE』さんの力が加わったので、タイミング的には絶妙でしたね。

─自身で作られたばかりの音源を試しにDJで使用したりしますか?

田中:
もちろんです!
いつもナカムラくんと言っているのは「スタジオでできた音がクラブでどう鳴るか?」という事です。メインモニターの『ムジーク』は、音質特性的にどこかが特出するようには設定されていないのですが、クラブの音環境は低音部分をブーストする為に、極端なサブウーファーが設置されていたり、イコライジングとか、コンプレッションとかで、クラブっぽい、いわゆるドンシャリと呼ばれるような音で鳴る。だから、必ずクラブ現場での実験はやります。 そこでの鳴りを試して、スタジオで補正を繰り返すという方法をいまだにやっていますよ。ダンスミュージックは、完璧な環境で音響が鳴らされるわけではないですから、そのあたりが難しいんです。だから、それに対してのハードルも自分たちで上げて作っていたりします。

─そのハードルというのは?

田中:
自分のスタジオでは鳴るけれど、クラブではちょっと極端に鳴るとか、何かが足りないとか、それをリリースまでに極限に無くすようにしています。アレンジもそうですが、お客さんの足が止まった箇所とか、全体的にイマイチ盛り上がらなかったとか。こと音響に関しては、現場でアップデートしています。ある曲に関して言えば、半年くらいやってますよ。

ナカムラ:
僕らのやっている音は、ジャンルとしてあるものではないので、鳴らし方から考えないといけないんですよ。だから、すごく燃えますよね(笑)。

─1曲を常にアップデートし続けている状況という事なんですね。

田中:
そうです。音響的な実験を日々繰り広げていて、日々、ガッツポーズをしているんですけれど、2週間前は喜んでいたのに、いま聴いたらこの音は全然ダメだと思っちゃったり。

ナカムラ:
ダメまで言わなくてもいいでしょう!とかね(笑)。

田中:
また2週間経つと、2週間前の自分のガッツポーズを否定して、さらに次に行くという作業を延々とやってます。ジョアン・ジルベルトって、一曲のボサノヴァで、コードの開き方を延々変えてみたりして、何十年も掛けてアップデートさせていると思うんですね。自分たちもそこまでとは言わないですが、一曲をさらに解像度を上げるとか、キックのマスキングがまるでされていないような音の配置ができたとか、そんなコトをやっていますよ。アップデートして、またアップデートして、さらに磨きをかける。そういう風にテクニックとか機材の使い方も含めて、日々アップデートして、少しずつ良くして、数週間前の自分を上書きして行くという方法を、、、楽しくやっているんですよ(笑)。

ナカムラ:
本当に楽しくやっているんです!それが大事(笑)。

田中:
僕らは音楽のプロとして、ラッキーな事に何十年もやらせていただいてきた中で、今あらためて何にもしばられるものなく、伸び伸びと音作りに没頭できる場所と時間があるのは幸せだなと思ってます。自分たちの意識の中で「最高の音響だよね!」というのを、井の中の蛙かもしれないけれど、自画自賛しながらレコーディングをやっているんです。

─しかし、スタジオで聞いて、良い音だ!と思ったとしても、やはり届けた相手の環境によりけりだとは思うのですが、そのあたりはどのように考えていますか?

田中:
ラジカセと『ムジーク』、そして『ジェネリック(GENELEC)』の小さいモニターの3つのスピーカーを使って、キャラクターも変えず、ハイクオリティに鳴らしきるというハードルを、最近、自分たちに設けました。もちろん、PCやiPhoneで聞く環境や小さいスピーカーでもきちんと低音を感じることが出来るのか?という、音作りというモノに関しては、かなりシビアに、ストリクトリーにやっていますね。

─現在、音源制作における環境は、ほぼほぼソフトが一緒になってしまっている状況ですが、田中さんは、その個性を出すためにアナログ機材をつかっているというコトなんですね。

田中:
音づくり、解像度、すべてをデジタルとアナログを駆使しています。最近だとナカムラくんと人工知能のソフトも使ったりしていますよ。

ナカムラ:
「アイソトープ(izotope)」という会社のプラグインソフトが、音を聴かせた段階で、それに合わせたEQをしてくれるんです。いわゆる人口知能ですよね。コレがたまに負けるんですよ(笑)。

田中:
結局、僕らも聞いただけ、耳だけでは分からない部分が多いんです。この周波数がガチ当たってしまっているとか、ベースとドラムがしっくりこないとか、それを解析して、画像にして、自動的に補正してくれる機能がついているんです。でも、僕らはそれを見てもデジタルを100%信用していないので、その部分の周波数を削ったりとかのイコライジングは『NEVE』1073を使う。まさにデジタルとアナログの良いとこ取りですよ。そういう意味では、無理してでも高い機材を買っておいて良かったと思ってます。

─個性を出すためのアナログ機材サマサマ!という感じですね。

田中:
本気の1073のシュミレーションソフトのプラグインとかが出てきたりして、以前までは、アナログのビンテージを凌駕する時代がいよいよ来たなと、アナログ機材は引退かなと思っていました。でも、現段階で思っているのは、いくらデジタルでシュミレーションしようが、アナログはまったく別モノで、かなり近いキャラクターだとしても、ねつ造でしかないわけです。それでも音によっては、すべて実機が良いわけではなく、シュミレーションの方が相性がいい時もあったりする。それは、いつもナカムラくんとも「不思議だなー」という話になるんですけれどね。ただお互いの共通点として、何となく『エイブルトン(ABLETON)』の音は好きではなくて、、、もちろん今の現代レコーディングには一番向いているとは思うのですが。でも、『エイブルトン』は手癖で出来る音楽という部分があって、音像とか、やり方が似てしまうんです。

ナカムラ:
そうですねー。

田中:
こういう便利になった現代だからこそ、逆に遠回りをすべきかなと。そういう部分で言うと、今回の件で電源部分がアップデートされたというのは、デジタルのイーブンな制作環境においてアドバンテージを得れるって事でもあるし、それはすごい事だなと思っています。

─若い音楽クリエイターたちに向けて、アドバイスをいただけますか?

田中:
デタラメな方が面白いと思うんですよ、自己流というかね。今って、ある機材を使おうと思って『Google』や『YouTube』で調べたら、すぐにその正しい使い方の動画が出てくる、つまりその正しい使い方がわかる時代なんです。僕らはインターネットさえ無かった時代に音楽を作りはじめているので、本当に自己流なんですよ。それに今使っている『UREI』の1176だったり、『NEVE』の1073とかの使い方って、いろいろとトライの中で出来たヒドいセッティングなんです。その音で世紀の発見みたいな事をやっているので、それっておそらくセオリー通りにやっていたら、出来ない発見だと思うんですよね。進化すると安定して行きますが、良い反面、失敗するチャンスもなくなる。僕らは失敗によって生まれた、デジタルの歪みでしか鳴らない音を楽曲に使いたいんです。

ナカムラ:
でも、どうやって作ったのか?を遡る時はあります。ここから始まってこんな音になったのか!?って(笑)。

田中:
自分たちもどうやって作ったのか分からない音楽ですよ(笑)。過去にFPMでもそういう失敗から、いろいろなものが生まれてきているんです。でも、それらの失敗を成功に置き換えるというか、そうやって作った音楽の方が楽しいんですよね。だから、実験するとか、自己流のやり方で音楽を作る事が重要で、過去の達人たちの”失敗しないセオリー”は容易く手に入るけれど、失敗の先にしか発明はないと思ってます。とにかく、自己流で何かを生みだす事をやっておいて欲しいですね。

─次の時代、機材面で期待していることはてありますか?

ナカムラ:
とにかく、どこでも音楽が作れるようになったらいいですよね。『ACOUSTIC REVIVE』さんには大変申し訳ないのですが、ケーブルが無くなったらいいなと思っています。でも、絶対に無くなる事はないのですが。あとは、例えば脳にベルトを巻いて、頭の中で鳴っている音がそのままデータ化されるような事が出来れば、音楽教育のすべてが変わって、とても幸せな世の中になると思いますね。

田中:
でも、以前は夢だった、鼻歌を譜面にするとか。今はアプリで出来る時代じゃないですか。それにコードをつけるアプリまであるしね。

─田中さんにとっての音楽クリエーションとは何でしょうか?

田中:
私は、きちんとした音楽教育を受けていないんです。でも、受けなくて良かったと思っていますよ。昔、バンドでベースをやっていたのでコードとかの音楽的な事は、ある程度分かってますが、でも自分の中で気持ち良いか、そうじゃないか、というのが確実にあるんです。そういう部分は12音階に置き換えられない。だから自由なんですよ。絶対音感のある音楽教育を受けた人に言わせるとダメな事も、オッケーじゃない!という事がよくあるんです。もちろん、不協和音は嫌いですが、でも、それをテンションに置き換えて「コレって気持ちよくない?」って。そういう事だと思うんですよね。 音楽制作って、すべてがガッチリ数値化出来るモノではないので、言ってしまえばウサン臭い作業なわけです。ヤン冨田さんが「”必然性の偶然”をアーティストとしてどれだけ確率を上げるか?」とおっしゃってましたが、それはすべての音楽制作において言える事なんですよね。結局、ラッキーかどうか。 何もかも四角四面で割り切れるわけがなく、そういう部分に夢があるし、発明がある。そこにクリエーションがあると考えています。

Interviewed by Hideshi Kaneko Photo by Makoto Nishijima

ナカムラヒロシ(i-dep)

ミレニアム期にロンドンにてソロプロジェクト、i-depとして活動を開始。
2004年、デビューシングル「Rustlica」がイタリアIRMA RECORDSよりワールドリリース。これまで6枚のアルバムを発表しており、国内外の音楽ファンに高く評価され、iTunesの総合チャートで3位を記録した経歴を持つ。
実験的で自由なサウンドメイキングは王道でありながらも新しく、そしてそのトラックを泳ぐ美しく感情的なメロディーラインが特徴的なi-depは、バンド形態でのライブにこだわっており、日本国内にとどまらず海外のフェスにも精力的に出演。数々の大成功を収めている。 昨今のカフェミュージックやカバーブームの火付け役的存在として知られるsotte bosseのプロデューサーとしても活動。これまで85万枚のセールスを記録している。

その他、JUJU、和田アキ子、小松未可子、ハルカトミユキ、massan×bashiryなど様々なタイプのアーティストのプロデュースも手掛けている。 最近では、世界的人気を誇る映像監督の庵野秀明氏が代表を務めるスタジオカラー制作の長編アニメ「龍の歯医者」の主題歌、挿入歌、そして一部サウンドトラックを担当。 メロディーメーカーとして、そしてアレンジャー、DJとしてなど、様々な表現の場を持ち”新しいポップミュージックを届ける”というコンセプトのもと音楽を発信し続けている。

http://www.i-dep.tokyo